経営者のひとりごと

事業承継から3年、「2代目コンプレックス」が無くなりました

事業承継から3年、「2代目コンプレックス」が無くなりました

Web制作会社を事業承継して2年が経ち、3年目に突入しました。2代目経営者として創業者の文化に自分の文化を上書きする難しさを感じながら、日々組織づくりに奮闘しています。

3年目にしてですが、この度事業承継当初からずっと抱えていた2代目コンプレックスが無くなりました。もちろん口に出して「コンプレックスあります」と言ってたわけではなく、最近になり心の奥で抱いていた気持ちが消失されていった感覚です。

そこで今回は、立場上あまり言えなかった2代目コンプレックスと、それらが無くなった経緯を紐解いていきたいと思います。もしかすると私と同じように2代目ならではの悩みを抱えている方がいるかも知れません。またこれから誰かに会社を引き継ぎたいと考えている方がいるかも知れません。

状況や規模は異なりますが、世界に点在するどこかの2代目経営者の役に立ってくれることを願って書いていきます。

コンプレックス①
 「事業に対する“愛着”が持てない」

まず初めに2代目コンプレックスのことを自分なりに表現しておくと「創業者のような“◯◯を成し遂げたいから起業した”という大義の無さからくる後ろめたい気持ち」のことを言います。

これを言うと「え!そうなの?」とよく言われますが、実際そうです。

事業承継は転職を考えていた矢先の話で、先代から相談されたことをきっかけに根拠のない自信が爆上げし気付いたら引き受けていた感覚が近いです。親族内承継であればスタッフである時から構想することもあったと思いますが、私の場合は今の会社はただの勤務先に過ぎませんでした。

また先代が掲げていたミッションやビジョンについても、自分の考えたもので無ければ社内でも浸透しておらず、自分自身の会社に対する愛着も怪しいものでした。これらは当然他のスタッフにも言えることで、組織づくりをする上では「あれ?これ・・・イチからスタートした方が早いんじゃないかな?」と思ったこともあります。

そのため、2代目経営者として社外の人と会う度に聞かれる「これから事業をどういった展開に?」の質問に強いストレスを感じていました。

元々デザイナーではあったので、Web制作やクライアントワークに対する愛着はありました。しかし「そもそもこの事業を通じて何を実現したいのか?」と経営者の解像度で質問されると内心では「俺がやりたくて始めた事業じゃないし…」なんて思っていました。

実際、営業会社としてスタートしOA機器のリース販売から、ホームページのリース販売にシフトした経緯など“儲かるから始めた事業”に対し納得できず、事業に対する愛着を持ちたくなかったのが本音。

「事業承継しておいて、それはナシでしょ。スタッフさん可哀想…」なんて怒られそうですが、社外の創業社長からのビジョンマウンティングは私には眩し過ぎました。自分自身に文脈がない中、事業に対する持論を展開出来ないことに自信を無くし「2代目 会社潰す」とググったことは何度もありますw

その事業を担ってんのは誰だよ!という話。

「事業に対する愛着が持てない」と感じながらも、会社としての事業は少しづつ成長していきました。私が現場の人間ということもあり、職場に点在する負の要素を取り除くことで、仕事環境やスタッフの士気は著しく高まりました。事業が成長するに連れ、始めの頃は後ろめたい気持ちを抱いていたのですが、しばらくすると自分の中での事業に対する愛着も次第に高まっていきました。

この結果が全てで、今事業を引っ張っているのはスタッフであり、その努力に報いることがまずは先決。それを無くして経営者のミッションなんてねーだろ!と思うようになりました。

お前の言う事業に対する愛着って、“美談”が欲しいだけなんだろ?

ふとした時に、そう自答していました。自分の中で“こうあるべき論”があったのかもしれませんが、今思うとただの見栄っ張りにも感じ、ちょっぴり笑えたり、ムカついたり、鼻についたりもします。

そして、この気持ちの変化は経営者としての大きな指針にも繋がりました。

これは今自分が社内への「会社に属する理由を持って欲しい」という意見に対する自分自身への「経営者であり続ける理由」です。

Web制作会社は「儲からない」「スケールしない」とよく言われますが、クライアントワークの労働集約型ビジネスでは、Goodpatch 土屋さんの「クライアントワークを舐めるな」や、才流 栗原さんの「労働集約ビジネスをお勧めする11の理由」など、ここ最近では勇気付けられる意見も多くあります。

Web制作事業は自分がやりたくて始めたビジネスでは無いけど、この事業を未来につながる事業にして行こう!自分が元デザイナーである愛着も含めて今ではそう強く思っています。

コンプレックス②
「創業から13年、切り離せない会社の“歴史”」

何よりも自分が1番コンプレックスに感じていたのが「創業13年を超えている会社」を事業承継したことでした。

  • 「創業10年の企業(生存率5%)」の経営者に求められるものは何だろ?
  • 「無能の2代目」レッテルを貼られたくない!
  • 「もしもの時」に自分のキャリアが終わるかも知れないなぁ。。。

事実ビジネスマンとしてのスキルは先代の方がズバ抜けて高く、資金繰りの苦悩を経験している分、財務経営力では足元にも及びません。これに経営者としての「スタッフの生活を保証しなければならない」プレッシャーが相まって、強いコンプレックスへと変わっていきました。

先程「事業に対する愛着が持てない」の箇所にて「転職を考えていた矢先に事業承継の話が来た」と“棚から牡丹餅”のような表現をしましたが、現実はそう単純ではありません。実際の組織改革はその数年前から行われていて、事業承継に至るまでは割と社内摩擦のオンパレードでした。

これまでの歴史の中では、私が当事者となっていることもあれば、そうでないこともあります。が、それだけ摩擦が多かったということは、少なからず嫌われている人も多いということ。

今は表面的(社外的)によく見えていることも多いですが、実態としてはまだ悪しき風習は存在しますし、当然会社として金銭的な借り入れもそれなりにあります。

しかし、あらゆるベストな条件が揃った「誰もが羨ましがるようなパス」を貰える程自分が優れた人間だとも思っていません。これまでの歴史に関しては私の存在に関係なく否が応でも付いてきます。そんな過去を振り返ったところで何も意味がありません。

私に唯一出来ることは “全てを受け入れ、今を肯定していく”ことでした。

そうしなければ前に進むことが出来ないと覚悟することで、日々の行いが自信に繋がりコンプレックスが無くなって行きました。

また、以前に風評被害対策の会社からこんな営業電話がありました。

うちの会社は元々営業会社で以前はホームページのリース販売をしていました。「ホームページのリース商法」というと悪名高く、検索すると様々な被害話が出てきます。(ちなみに“リース商法”が一概に悪いという訳ではありません。リースの仕組みさえ理解していれば、ホームページをクレジット契約するようなもので、実際は満足して頂いているお客様も多いです。)またプッシュ営業で行っていた側面もあり、どうしてもインターネット上では色々な意見が出てしまいます。風評被害対策の会社もその片鱗を見つけての連絡でした。

営業会社から制作会社にシフトチェンジしたのは2014年。自社サイトのリニューアルを機に、反響営業へと大きく舵を切りました。ここから私が事業承継するまでの間に34名いたスタッフも一時期は16名まで減少しました。ただ、これも事実であり、受け入れるしかありません。

「創業13年の会社だけど、事業承継のタイミングでスタッフは16名まで激減しちゃった(もちろん売上も)実際、業界では創業3年でうちの会社よりも利益出している会社あるけど・・・すんません、イチから頑張りますわ!」

現実を受け止め、覚悟することが何よりもの大きな前進でした。

“2代目コンプレックス”なんてただの言い訳。

結局のところ、コンプレックスが生まれるも生まれないも、会社を自分ごと化出来ているかどうかです。創業者からしてみれば“コンプレックス”なんてただの言い訳に過ぎません。

これまでにもスタッフからは「もう会社は丸山さんカラーになってますよ」と何度も声をかけてもらっていました。しかし自分の中で納得することが出来なかったのは「事業に対する愛着」や「会社の歴史」からくるプレッシャーにより、どこかで先代や過去を原因として言い逃れようとしていたのかも知れません。

今、会社は16期目に突入しています。
私が事業承継者としてやるべきことは稼ぐ仕組みをつくることです。

「稼ぐ」ことは自分の力で精を出して収入を得ること、「儲ける」ことは結果論の収入。経営者として儲けるよりも稼いでいたいし、会社としても儲かる仕組みよりも稼げる仕組みを作りたいと考えています。

事業承継は、創業者の基盤を受け継ぎ・組織をリメイクしなければなりません。しかし、それと同時に成長期から成熟期にかけて、第二創業ベンチャーとして野心的である必要もあります。

事業承継者として、受け継いだ会社をどうしていきたいのか。

コンプレックスとは本来“劣等感”のことではなく、心理学・精神医学的にはフェチズムに近い愛着のことを指します。私が抱えていた「2代目コンプレックス」も創業者にはない独自の強みだと捉えると、不思議と愛着が湧いてきます。

だからこそ、今では堂々と言える自分がいます。

「2代目ですけど、何か?」

投稿者: Takanobu Maruyama

大阪でWeb制作会社「株式会社ユニオンネット」、高知の馬路村でデザイン事務所「ミトネデザイン」を運営。経営・人事・広報、たまに制作者でもある香川県生まれ3児の父です。
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