経営者のひとりごと

ギルド型の現実を前に、組織は“個”とどう共存するのか

「ギルド型」という言葉が使われ始め、もう10年ほどになるのかな。

一時の流行のように語られていたが、最近になってようやく現実を追い越し始めた気がする。

デザイナー、エンジニア、フォトグラファー、コピーライター…

それぞれがプロジェクト単位で集まり、成果を出してはまた次の現場へ向かう。

いま「再現性」を前提とする組織のあり方が、静かに問い直されている。

そんな気配がする。

クライアントワークを突き詰めていくと、“自分たちのできる範囲”という壁にぶつかる。

内製体制は安定をもたらす一方で、解決の方法や表現の形が社内の「できること」に縛られてしまう。

クライアントにとってのベターではなく、ベストな形で応えるには組織の外と交わりながら新しい関わり方を探る必要がある。

その柔軟さがプロジェクトの深度を決める分岐点になっている。

この柔軟さは、経営の理屈とは相反する。

再現性を高め、属人性を抑えることが組織の安定を支えてきた。

だが、いま必要とされているのは、

“仕組みとしての正しさ”ではなく、“目的としての最適解” だ。

プロジェクトの性質によっては、その最適解が社内には存在しないこともある。

SaaSやAIの発展で内製化のコストは下がる一方、それらのツールをどう活かすかの思考や構想力は、ますます個人に依存する時代になっている。

だからこそ、柔軟に組成されるギルド型の関係が、現場のリアリティに即した選択肢になりつつある。

たとえば、トップティアのクリエイターたちはすでにこのモデルが成立している。

組織ではなく「個」が信用でつながり、プロジェクトごとにチームを編成して成果を出す。

それがもはや特別ではなく、自然なワークモデルとして機能している。

経営者としての感覚を正直に言えば、それはどこか“こわい”構造だ。

固定メンバーで蓄積してきたナレッジや仕組みが、流動的なチームに置き換わっていく。

ただ同時に、その自由さの中に、これからのクライアントワークの希望も見えている。

すべてを内製することがゴールではなく、プロジェクトごとに最適なチームをつくれることが価値になる。

そのとき、制作会社は「組織」ではなく、“つながりのハブ”としての役割を担っていくのかもしれない。

内と外を分けずに、関係を編み直していく。

再現性と柔軟性、仕組みと偶発性。

そのあいだで揺れながら、クライアントのベストを模索していく。

その先にあるのは、「組織の中にすべてを持たない勇気」なのかもしれない。

Takanobu Maruyama